とある雨の降る夜、居合の稽古からの帰り車から降りようとした私の足元で何やら鈍い物音が……。
車のドアの陰になった暗い足元をじっと目を凝らしてみてみると、何やら四角い物体が転がっている。
「あ、スマホか」
私はスマホにはケースを付けぬ主義である。折角メーカーさんが努力して薄く作ってくださっているスマホにケースなど付けて厚さを増してどうする。ポケットの中で邪魔になるではないか。開発者さんの努力が水の泡ではないか。
今までも何回かスマホを落としたことがある。もちろんコンクリの上にも。でも、画面に小さい傷がつきこそすれ、それで実用に差しさわりが発生するなどという事は無かった。
今までは……。
車を降りる際、ジャケットのポケットから零れ落ちてしまったスマホを拾い上げる。雨に濡れたコンクリの地面に落ちたスマホはすっかり濡れてしまっている。
暗くてよくわからないが地面にこすれて画面も擦り傷だらけのようだった。
ジャケットの裾で画面についた雨水を軽く拭いてポケットに戻す。そして、駐車場から家に戻った。
擦り傷などという生易しいものではなかった。おそらくスマホの角が直接地面にぶつかったのであろう。綺麗に画面が割れている。文字通り綺麗に、画面の上に美しい模様を描いて割れていた。
![](https://i0.wp.com/kanrinin.dkn-iaido.net/wp-content/uploads/sites/5/2020/07/059565ff4f5b808b18871cd13b2d7ad0.jpg?resize=800%2C482&ssl=1)
本体にケースを付けない者が、当然ガラス面に保護フイルムなど貼って居ようはずもない。
美しい模様を描いた画面はフリックするたびに細かいガラス片が指に刺さった。
指に刺さったガラス片を取りながら、スマホを買い替えなきゃいけない懐の痛みと、あのクソ面倒くさいセットアップを又しなきゃいけないのか、という心の重さに僕は震えていた。
指に刺さったガラス片は小さすぎて、刺さった指先に痛さは感じなかった。
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