

洋楽ロックを聴き始めた50年近く昔の事、知り合いに極端にビートルズ推しの男がいた。嫌いだった訳じゃ無いが、何にでも口を出してくるので苦手な部類の人間だった。
彼は事あるごとに「ビートルズはナンタラカンタ…、ポールはドウタラコウタラ…、ジョージは、レノンは、リンゴは…」と、実際問題うざかった。あまりのうざったさに世間知らずの少年だった私は「よし、お前がそこまで言うのなら、俺は絶対にビートルズは聞かん」と固く心に誓った。そして、それは今でも続いている。
月日は流れ大学生になりビートルズマニアの男とも疎遠になっていた頃、私は軽音学部でバンドをやっていた。ある日、バンドメンバーの一人が「この曲を演りたいんだけど」と、一本のカセットテープを持って来た。
「なんて曲?」
「While My Guitar Gently Weeps」
テープをラジカセに入れプレイボタンを押す。
「良い曲だね。誰が演ってるの?」
「……エーットね…エリック・クラプトン…」
彼は嘘はついていなかった。
私は、名前は聞いたことあるが曲についてはあまり知らないエリック・クラプトンという名ギタリストの曲を一生懸命にコピーした。
月日は流れ大学を卒業とともにバンド活動からも足を洗って数年経ったある日、社会人になってから付き合いの始まった友人と共にカフェに居た。
BGMで「While My Guitar Gently Weeps」が流れてきた。
私「あ、この曲知ってる。学生時代にバンドでコピーしたことがある」
友「へー、ビートルズ好きなの?」
ほんの少し間が空く。お前は何を言っているんだ、というような顔をして私が言う。
私「え、この曲、クラプトンだろ」
ほんの少し間が空く。お前は何を言っているんだ、というような顔をして彼は私に言った。
友「いや、ビートルズの曲だよ。…ギター弾いてるのはクラプトンだけど…」
長い沈黙。
そして更に月日は流れ、来年2025年に80歳を過ぎたクラプトンが武道館で6デイズの来日公演をするというニュースが入ってきた。
お元気そうでなによりです。
「エリック・クラプトン」という名前を聞くと今でも何か心がザワザワします。
誰が悪いわけでもないけれど。
そして今でもそっと gently weeps。
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